平日は毎日毎日終電で帰り、土日は土日で休日出勤。
しかも時には会社に泊まり込んで仕事。
仕事の内容自体はすきだからなんとかやっているものの、そんな忙しい日々が続いていた野原さんは、疲れ切っていました。
その日も終電に乗って最寄り駅まで帰ってきたあと、自宅までの道を歩いていました。
木曜日。身体はくたくたです。
急にくらりと立ちくらみがして、思わず近くのものにしがみつきました。
しばらくじっとしていると、めまいは収まってきました。
そして気づいたのですが、野原さんがしがみついていたものは、バスの停車案内板でした。
「こんなところにバス停なんてあったかな?」
野原さんがそう思っているところに、ブロロロロとエンジンの音を轟かせてバスがやってきました。
野原さんは、吸い込まれるようにバスに乗り込みました。
バスには、野原さんと同じように疲れ切った人たちが数人乗っていました。
みんな一様に座席でぐったりと目を閉じています。
入社一年目でまだ業務に慣れない会社員。
一日歩き回った営業マン。
就職活動に苦戦している学生。
塾帰りの小学生。
毎晩夜泣きの激しい赤ん坊を連れた母親。
野原さんも、座席に着くと同時に眠りに落ちてしまいました。
*
*
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「…は…点、……………。」
「…は終点、………です。」
「次は終点、………です。」
車内アナウンスが終点に着いたことを告げています。
その声に、野原さんははっと目を覚ましました。
そして、きょろきょろとあたりを見回しました。
他の人も、同じようにきょろきょろとあたりを見回しています。
それもそのはず、バスは明るい日差しの降り注ぐ花畑に着いていたのです。
乗客のひとりである小学生が、歓声を上げていちばんにバスを降りていきました。
大人たちもそれに続きました。
赤・青・黄色・ピンク・オレンジ…色とりどりの花と、緑の葉っぱのじゅうたん。
しかも、その広い花畑には、ちょうど人数分のふとんがひいてありました。
野原さんは、迷うことなく手近なふとんにもぐりこみました。
空は青空。横をみればきれいな花々。
ふかふかのふとんにくるまれて、再び眠りの世界へ。
今度は、深く深く。
*
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目が覚めたとき、野原さんは自分の部屋のベッドの上でした。
「夢だったのか…」
服も着替えず、化粧も落とさずに眠ってしまったのかと、ベッドを抜け出して洗面所に向かいました。
そのとき、ひらり。
野原さんの服から落ちたのは、ピンクの花びら。
「明日は会社をちゃんと休もう。そして、花屋で花を買おう」
金曜日。そう思って、野原さんはいつもより元気に出勤していきました。
おしまい。