読書日記 保坂和志『季節の記憶』
【トンビは彼の頭上で大きい弧を描きながらゆったりと旋回をつづけて、タイミングを見計らって降下して彼の手からエサを咥えて舞い上がるか沖に向かって飛んでいき、それをぽかんと口を開けて見ている息子はトンビがエサを咥えるたびに上唇を三角にとんがらせて、
「ふゅう!」
と感嘆の声を上げる。(保坂和志『季節の記憶』中公文庫)】
初めて読んだのは大学生の頃だったかと思いますが、何度も読み返している好きな小説の一つです。続編に『もうひとつの季節』もあります。
舞台は鎌倉・稲村ケ崎。
主な登場人物は、語り手である「僕」とその息子のクイちゃん、隣の家に住む松井さんとその妹の美紗ちゃん。
(『もうひとつの季節』には「茶々丸」という猫も登場。)
「僕」がぶらぶらと歩きながらいろいろと考えたことをつらつらと綴るーそれだけの話なのですが、とても味わい深い小説です。
時間や宇宙、言語機能についての考察などには知的欲求を刺激されたり、血液型による安易な類型化への批判などには「当たり前」として語られることを盲目的に信仰してしまうことの危険性を反省させられたり。
好きが高じて、小説の舞台である稲村ケ崎を訪れました。
寄せては返す波。見ていて飽きない。
トンビは間近で見ると怖かった…。