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イラストレーター・山奈央のあれこれどこそこ

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週末の物語 「才能」

人は誰しもが一つ、才能をもっているといわれています。

君枝さんも一つ、才能をもっていました。

君枝さんが自分のその才能に気づいたのは、学校を卒業してからのことでした。

 

 

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会社に勤めることになった君枝さんは、一人暮らしを始めました。

古いアパートに引っ越して三日目の夜、君枝さんは台所に立って不慣れな手つきで料理をしていました。

そして、ゆで卵ををつくろうと、水を張った鍋に卵を数個入れ、火にかけました。

「何分くらいゆでればいいのかしら?」

そう思って鍋を見つめていると、見えるのです。卵の中身が。

殻を透かして、ぐらぐらとお湯が沸騰する中で、卵が徐々にゆであがってゆく様子が見えるのです。

その日、君枝さんは完璧な半熟卵を完成させました。

  

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その後、いろいろなものを鍋でゆでる機会がありましたが、中身が透けて見えるのは、卵をゆでたときだけでした。

そうです。君枝さんの才能は、ゆで卵のゆで時間が完璧にわかることだったのです。

それが、君枝さんのたった一つの才能でした。

  

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他には抜きんでたところもなく、君枝さんは淡々とした日々を送っていました。

会社では褒められることもあれば叱られることもありました。

何年間も、会社と家を往復する毎日を過ごしてきました。

 

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そんなある日、どこから君枝さんの才能を聞きつけたのか、一人の男が君枝さんのもとにやって来ました。

男は、「あなたに『完璧なゆで卵』をつくってほしい」と言うのです。

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男は、ある喫茶店のオーナーでした。

君枝さんは、男の申し出を受けて会社を辞めました。

そして、その日から君枝さんは喫茶店の調理場に立って、来る日も来る日も卵をゆで続けました。

半熟卵の好きなお客さんには半熟卵を、かたゆで卵が好きなお客さんにはかたゆで卵を、完全にゆであがる直前のゆで卵が好きだというお客さんには完全にゆであがる直前のゆで卵を……。

君枝さんは、才能に気づいたその日から、あらゆる種類のゆで卵がつくれるようにひそかにその才能を磨いていたのです。

あらゆるお客さんの好みに合う『完璧なゆで卵』を、君枝さんはお客さんに提供し続けました。

 

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君枝さんのゆで卵を食べたお客さんは、いつも少し驚き、そして笑顔になるそうです。

そんなときは、君枝さんもにっこり笑顔になるそうです。

 

おしまい。