週末の物語 「文通」
スズメ夫婦と文通をはじめたのは、2月のよく晴れた土曜日のことだった。
その日、仕事が休みだったわたしは、ゆっくりとあたたかな布団にくるまってまどろんでいた。すると、こつこつと窓をたたく音がした。
わたしの部屋は、古いマンションの3階にある。
奇妙に思ってカーテンを開けてみると、そこにつがいのスズメがいたのだ。
一羽のスズメはそのくちばしに、何かをくわえている。
そして、もう一羽のスズメが、相も変わらずこつこつと窓をたたいている。
窓を開けるように要求しているのだと気づいて、あわてて窓を開けた。
すると、何かをくわえていた方のスズメが、ぺっとその何かをこちらに吐き出してよこした。
その何かは、手紙だった。
「みなさんげんきですか
わたしたちはげんきです
わたしたちはこめがすきです」
みなさんといっても、ここにはわたししか住んでいない。
手紙は短いが、スズメにしてはきれいな字で書かれていた。
次の日、返事の手紙といっしょに、米をぱらぱらと窓辺にまいておいた。
あとで見ると、手紙も米粒もきれいになくなっていた。
スズメ夫婦との文通は、今もつづいている。
おしまい。